雨と聞いて、思い出す作品は、ありますか?
本作には、雨や傘が、何度も登場します
しとしと降る雨、どしゃぶりの雨、ビニル傘・・・
淡々とした物語の中で
登場人物達の心や関係が、自然や静物を使って、丁寧に描かれている作品です
会社員+雨+傘=「ふったらどしゃぶり」=名作
この式が成り立つぐらい素敵な作品です
読んだ後は、雨の日を、これまでとは少し違う思いで、楽しめるようになるかもしれません
ままならない人生に苦しむ大人達が秘めた思いを、静かに味わいたい方にも、オススメの作品です
「ふったらどしゃぶり 完全版」とは
元々、2013年にフルール文庫ブルーラインで、発表された作品です
そこに加筆・修正したものが、2018年にディアプラス文庫から、「完全版」として発売されました
本編の修正に加え、完全版には「all rain in this nigth(どしゃぶりとびしょぬれのあいだ)」と
「雨恋い」が、収録されています
(2018年9月10日 新書館ディアプラス文庫)
「ふったらどしゃぶり」あらすじ
会社の同期である、萩原一顕(はぎわら かずあき)さんと、半井整(なからい せい)さん
些細なミスをきっかけに、互いと気づかずに、メールを送り合うようになります
相手を知らない気楽さから、誰にも言えない恋人との悩みを、メールで相談し合うようになる2人
相談するうち、徐々に心の距離は近づき・・・
「ふったらどしゃぶり」感想
静かで、外の温度は低いけど中は熱い、みたいな、複雑で、でもとっても素敵な作品でした
大人が読む、大人の物語って感じです
雨や傘が良い形で使われていて、雨の音を想像したり、何度も空を見上げたくなりました
読後も深い余韻があり、2人の今後を想像しながら、作品の世界にずっと浸っていました
しっとりした、大人の物語でした
特に社会人の人に刺さる作品なんじゃないかなと思います
あとは、社会に順応してそうな一顕さんが、実は悩んでいるってところに、親近感を感じました
普段、BLって、自分とは違う世界の人たちの話を読むのが、面白いんだと思っています
でも、人間の心をちゃんと描いている作品は、自分に引きつけて考えさせる強さがあるなと
たとえ、BLでも
設定がBLだったとしても、大事なのは、たぶんそこではなくて
書き手の先生の目に映っている「人間」の強さとか弱さとかが、引力を持つんだと思います
引力=魅力かな、と
性別関係なく、人の孤独と温かさへの渇望が、苦しいくらいに伝わる美しい作品でした
竹美家らら先生のイラストが、淡く切ない雰囲気
一穂先生の代表作には、イラストが竹美家先生の作品が多いですね
一穂先生の文庫デビュー作「雪よ林檎の香のごとく」のイラストも手掛けておられますし
代表作の1つでもある「イエスかノーか半分か」も竹美家先生ですし
淡い繊細な色使いが、一穂先生の切ないストーリーと合うなあと思っています
表紙の一顕さんが、特に好きです
注意点:フルール文庫で出版されたものを、加筆修正した「完全版」
元々、2013年にフルール文庫ブルーラインで、発表された作品です
それに加筆・修正し、2018年にディアプラス文庫から発売されたのが「完全版」です
購入の際には、ご留意ください
関連本「ナイトガーデン」「メロウレイン」
「ふったらどしゃぶり」シリーズには、今のところ、他に2冊あります
物語は、本作1冊で完結しています
他の2冊は、本作の世界観が気に入ったら、という感じです
「ナイトガーデン」は、整さんの同居相手だった和章さんの物語です
いわゆるスピンオフ作品になります
「メロウレイン」は、本作「ふったらどしゃぶり」の2人のその後を描いた短編集
同人誌などで散発的に発表されたものを、1冊にまとめた形です
どちらも手触りが良いですし、デザインも、すごく凝っています
可能なら、ぜひ1度、単行本を手に取って、感触を確かめていただきたいです
人生のままならなさにもがく、大人達のお話を読みたい方におすすめ
- 出てくる人たち、みんな生きることに苦しんで、もがいています
- 見えないところで一生懸命もがく大人のお話を読みたい方におすすめです
- ままならない人生の中で、「あと少しだけ頑張ろう」という気持ちにさせてもらえます